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自然が豊かな栃木県には、多彩な泉質の温泉があり、600を超える源泉数を誇ります。温泉・自然・食で美しくなる旅を研究する石井宏子さんが、首都圏からのアクセスもよい栃木県で、楽しくキレイになる温泉旅をご紹介します。今回の旅は那須高原へ。1泊2日で4つの温泉をめぐります。
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石井宏子
温泉ビューティ研究家・旅行作家。温泉の美容力を研究する日本でただひとりの温泉ビューティ研究家。旅にでかけて宿に泊まることをライフワークとし、トラベルジャーナリストとして取材・執筆、講演など年の半分は日本・世界を旅する。『全国ごほうびひとり旅温泉手帖』(世界文化社)、『感動の温泉宿 100』(文藝春秋新書)など。
「鹿の湯」の伝統入浴法で、体の芯からぽかぽかに
旅のはじまりは、朝8時から開いている立ち寄り温泉「鹿の湯」へ。栃木県北部に連なる那須連山の主峰であり、いまもなお噴煙を吹き上げる茶臼岳の山麓にある鹿の湯は、1,391年目に入る栃木県最古の温泉です。すぐ裏手には溶岩石が転がる景勝地・殺生石があり、湯けむりと硫黄の香りが漂います。
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自然湧出する温泉の泉質は、単純酸性硫黄温泉。pH2.6の酸性のお湯が、程よい刺激で肌と体を活性化。硫黄の毛細血管拡張作用で、血行を促進して体と肌の代謝をサポートします。
古くから湯治が行なわれていた鹿の湯の伝統入浴法は、高温短時間浴。熱めの温泉にさっと浸かって長湯をしないというのが流儀です。風呂場の看板にも、腰まで1分、胸まで1分、首まで1分を4回まで(最大15分)と書かれていました。
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木造の湯小屋のなかには、41度、42度、43度、44度、46度と異なる温度に整えられた湯船があります(男性は48度まで)。入る前には、温泉をたっぷりかけ湯。刺激の強い温泉に入る前の大切なウォーミングアップです。
41度から体を慣らして、あとは、無理をせず、お好きな温度の湯船まで。「それぞれ3分ほどで上がり、また入る」を3、4回繰り返して、さっと上がる。これだけでも血のめぐりがよくなって体のなかからぽかぽかと温まってきます。
肌の潤いをサポートする「メタけい酸」を含み、まろやかな肌触りです。湯上りは、情緒たっぷりの渡り廊下のベンチで水分補給をしながら休憩。温泉で美と健康を育むには、上がったあとの過ごし方も大切です。
鹿の湯
住所:栃木県那須町湯本181
定休日:年中無休(設備改修のための休日あり)
営業時間:8:00〜18:00(最終受付17:30)
URL:http://www.shikanoyu.jp/
電話:0287-76-3098
生まれたての温泉に浸かれる贅沢な楽園「大丸温泉」
鹿の湯で体を温めたら、茶臼岳を車で10分ほど上り、那須の最奥地にある秘湯、大丸温泉へ。山の斜面に竹筒をさせば源泉が流れ出るほどの豊富な温泉が、川となって流れている感動の温泉です。
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立ち寄りも宿泊もできる大丸温泉の名物は、温泉の川を棚田のようにせき止めてつくられた露天風呂。特に女性にうれしいのは、女性専用の露天風呂が最上流にある、レディーファースト設計です。
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上の写真は、雪のない季節に撮影した女性用露天風呂。山の斜面に数本の竹筒がさしてあり、そこから源泉が直接露天風呂に流れているのがわかります。まさに、生まれたての新鮮な温泉に浸れる幸せな楽園です。
泉質は単純温泉。優しい作用の温泉で、自律神経のバランスを整えてくれます。日ごろの疲れがすっとお湯のなかに流れていくような心地よさです。もうひとつの特徴は、泉質名には出てこないのですが、メタけい酸が多いということ。1kgあたり50mgあれば温泉として認められる成分ですが、大丸温泉には318mgも含まれていて、肌の潤いをサポートします。
大丸温泉
住所:栃木県那須町湯本269
定休日(日帰り入浴):不定休
営業時間(日帰り入浴):11:30〜15:00(最終受付14:30)
URL:http://www.omaru.co.jp/
電話:0287-76-3050
ゆったりとした時が流れる「カフェ ラ ディトンツ」でほっと一息
湯めぐりの途中でコーヒーブレイク。茶臼岳を下りて市街地へ向かい、こだわりの自家焙煎コーヒーの店「那須珈琲 Cafe La Détente(カフェ ラ ディトンツ)」へ。
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アンティークな小物や家具が置かれている空間は、まるで時がゆっくり流れているようです。注文したのは、ブラックで楽しめる軽やかな味わいの「ディトンツブレンド」。おすすめのシフォンケーキとの相性もばっちりです。
ディトンツブレンドとシフォンケーキ
近くに自然派の味噌屋さんがあると聞いて、立ち寄ることにしました。「日野屋」では、自分で仕込む味噌造り体験もできるそうで、お店の裏にあるお味噌づくりの場所をご主人が案内してくれました。
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「味噌づくりに大切なのは、麹と塩」というご主人。麹蔵で、栃木県産のお米を使って米麴からつくり、栃木県産の大豆で味噌を仕込みます。一番人気の黒大豆味噌をお土産にします。
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自家焙煎那須珈琲 Cafe La Détente
住所:栃木県那須町寺子丙3
定休日:月曜・火曜(不定休あり)
営業時間:10:30〜19:00(冬季は18:00まで)
URL:http://www.nasu-coffee.com/
電話:0287-73-5272
日野屋
住所:栃木県那須町寺子丙3-89
定休日:なし
営業時間:7:00〜18:00頃
URL:http://nasukusi.main.jp/hinoya.htm
電話:0287-72-0342
自然の真ん中で心と体を休める「星野リゾート リゾナーレ那須」
高原でのアグリツーリズモリゾート気分を味わいたいと宿泊したのは、「星野リゾート リゾナーレ那須」。本館のデラックスメゾネットルームの特徴は、天井までの大きな窓。風景とつながり、まるで田園や森のなかで過ごしているような気分にさせてくれます。
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広い敷地を散歩していると、野菜やハーブの畑があるアグリガーデンへたどり着きました。アグリガーデンでは、無料で農家の手仕事体験に参加でき、ホテル内の田んぼで収穫した玄米で「カイロ」を手づくりしました。
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ほかほかと温かな玄米カイロをポケットに、森の小道を散歩して温泉へ。泉質は、含硫黄-カルシウム・マグネシウム-硫酸塩泉。硫黄の血行促進作用と硫酸塩泉の保湿作用のカクテルのような温泉です。暮れ行く森を眺めながら温泉で深呼吸。アメニティーやタオルなどは用意されているので、手ぶらで散歩中に立ち寄れるのがうれしいところです。
昼の大浴場 夜の大浴場
夕食は、ホテルのメインダイニング「OTTO SETTE NASU(オットセッテ那須)」で、野菜をたっぷり楽しめるというディナーコースを。
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「農園のピンツィモーニオ」は25種類以上の野菜が彩りよくのった一皿。目の前で生ハムをカットして仕上げてくれます。
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また、冬ならではの味わいに感激したのは「白葱のカラバッチャ」。オニオングラタンスープの原型といわれるトスカーナの伝統スープを、那須高原の白葱で仕立てています。甘くてとろとろの冬の白葱スープにチーズがとろけて幸せな美味しさ。
ガラスのドームを開けると燻煙のなかから現れたのは「岩魚と韮(にら)のトンナレッリ」。もちもちとしたパスタの食感と韮クリームソースのコク、スモーキーな岩魚の味わいとクレソンのほろ苦い味わいのハーモニーが絶品で、ワインがすすみます。
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星野リゾート リゾナーレ那須
住所:栃木県那須町高久乙道下2301
URL:https://risonare.com/nasu/
電話:0570-073-055(リゾナーレ予約センター)
電話:0287-72-0342
地元の人々に愛される「金ちゃん温泉」
すっきりと目覚めた翌朝は、地元の人々に愛されている小さな日帰り温泉「金ちゃん温泉」で立ち寄り湯。
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泉質は、ナトリウム-塩化物泉でpH7.9の弱アルカリ性。塩分濃いめのお湯は、塩の成分がベールのように肌を覆って保温・保湿し、湯上り後もぽかぽかしっとりが持続する、湯めぐりの仕上げにぴったりな泉質です。
つるつるとろりとした感触と、ほんのりと森のような温泉の香りにうっとり。休憩処の外にはウッドデッキがあり、椅子に座って森林浴気分も味わえます。
奥の窓の外にはウッドデッキ
金ちゃん温泉
住所:栃木県那須町高久3370-3125
定休日:水曜・木曜(祝日の場合は営業 / 冬季は月曜・火曜は昼の部のみ)
営業時間:昼の部 11:30~16:00(最終受付15:00)、夜の部17:00~21:00(最終受付20:00)
URL:https://kinchan-onsen.com/
電話:0287-74-3526
自然農法で育てた野菜をたっぷりいただく「アワーズダイニング」のランチ
1泊2日の旅の締めくくりは、那須の温泉に来たら絶対に行きたいと楽しみにしていた「アワーズダイニング」でランチを。予約必須の人気レストランです。
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迎えてくれるのは、阿波の国・徳島から那須へと移住したご夫妻。無農薬・無肥料、耕さず虫たちとも共存する「自然農法」で、在来種の野菜を育てています。シェフは夫の濱口正遠さんで、妻の淳子さんはフードコーディネーターでもあり、お二人のハーモニーが生み出すお料理がとにかく優しくて美味しいのです。
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一軒家のレストランは、自然循環をテーマに、自分たちの手で内装も手がけたそうです。お庭にヤギがたたずんでいたり、果実酒・酵素シロップの瓶が並んでいたりと、那須の暮らしを楽しむ雰囲気が伝わってきて、この場所にいるだけで癒されてしまいます。
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ランチ・ディナーともにおまかせのコースのみで、何がいただけるかは当日のお楽しみ。主菜のみ、野菜料理か肉料理を選択して予約をします。今回の旅では、徹底的に那須高原の野菜を食べたいと思っていたので、もちろん、野菜料理をチョイス。
コロナ禍になってからは、お料理は木製の大きなお膳にすべて載せていっぺんに出すスタイルに変えたそうです(好評につき、今後もランチはお膳で提供されるとのこと)。この木箱もシェフの手づくり、地元の木材を使っていて温かみがあります。
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みやま小蕪のポタージュスープは、蕪のとろける甘味が広がります。続いては、サックサクのキツネコロッケに、もっちりと満足感のある、カボチャと黒胡麻の小さなおやき。大豆の磯辺揚げは豆の食感が楽しく、「美味しい」と思わず声に出してつぶやいてしまいました。
この日のメインの野菜料理は「レンコン真薯の照り焼きソース」。レンコンのサクサク感と真薯のもっちり感が、甘辛でパンチのあるソースと絡んで、釜炊きごはんがすすみます。添えられたグリル野菜たちが、甘くて美味しい。野菜だけとは思えないほど、満足感と幸福感のあるランチです。
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お料理と一緒にいただく手づくりの赤シソジュースのソーダ割りは、爽やかな味わい。ライ麦の茎をそのまま使ったストローは、このためにわざわざ麦を育てているそう。デザートやハーブティーまで、のんびりと心も体も癒されるお料理でした。
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デザートとブレンドハーブティー
アワーズダイニング
住所:栃木県那須町高久甲5834-14
定休日:水曜・木曜・金曜(祝日の場合は営業 / 冬季休業あり)
営業時間:ランチ 12:00~15:30(13:30ラストオーダー)、夜の部18:00~21:00(19:00ラストオーダー)※昼・夜とも要予約
URL:http://www.oursdining.jp/natural_restaurant/OursDining_Top.html
電話:0287-64-5573
取材・文:石井宏子 / 写真:サトウタツヲ(NaSuMo)/ コーディネート:こんどうあゆ(NaSuMo) / 編集:原里実(CINRA, Inc.)