鉄道 第1章 悪友2人の栃木鉄道旅 後編
映画大好きなベンと音楽大好きなカッペイ、同じ59歳の悪友2人の栃木旅行。後編です。
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13:30
2日目 到着〜SL大樹〜下今市駅
下今市駅に到着。駅には「SL展示館」もありましたが、館内撮影禁止のため写真はこれだけ。
かつて栃木県内を走っていた様々なSLの貴重な写真や資料が見られるので(しかも入館は無料)、オススメです。
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14:00
渡邊佐平商店
ここからJRの今市駅まで徒歩で移動する2人、ちゃんと立ち寄るべきスポットの情報は入手済み。
創業182年の老舗酒蔵「渡邊佐平商店」にお邪魔します。真ん中がご主人の渡邊さん。めちゃくちゃ気さくな方で、通常は事前に予約が必要な「酒蔵見学ツアー」をご好意で特別に体験させてくれました。
この体験ツアーが面白いのなんのって!
これまで数多くの醸造所やワイナリーでお酒の解説を聞いてきた2人ですが、文句なしに1、2を争う面白さ。
日本酒の歴史に始まり、
「純米吟醸の方が美味いなんて単純な話じゃなくて」「アルコールが添加されていたら質が悪い酒、ではない」「ラベルが一緒でも中身が一緒とは限らないんです」「米と酵母の組み合わせ、これを考えるのが面白い」 とマシンガントーク。
笑って、感心して、日本酒博士になった気分にさせてくれる40分でした。 インバウンドのお客さま向けに英語でもツアーをやっていて、そこでも爆笑を取っているというのもうなずけます。ツアーの最後は「渡邊佐平商店」ご自慢の日本酒の試飲会。
こちらの看板の日本酒はもちろん、イタリア ミラノの品評会で銅賞及びピザとのフードマッチング賞に輝いたもの、同じ銘柄でも酒米の違うもの、あえて昔ながらの日本酒らしい味に仕上げたものなどなどなど。飲む順番にも深い意味がある完璧なプレゼンテーションと、それぞれ特徴ある6本の日本酒の美味しさに、
ベン「ピザのヤツ、買います!」
カッペイ「純米吟醸にします!」
と即買い。
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16:00
出発〜宇都宮ライトレール〜県東エリアへ。
ご主人のおもてなしに時間を忘れてしまった2人、挨拶もそこそこに JR今市駅に移動。酒蔵に立ち寄ったけど、これは「栃木鉄道旅」ですからね。宇都宮駅まで来たのは、餃子が目当てではなくて、こちらが本命だからです。
「LRT」こと、「宇都宮ライトレール」です!!
「SL大樹」が戦後のスーパートレインだとすれば、「LRT」は令和のスーパー路面電車。 近未来感満載のフォルムで、宇都宮の中心から郊外の工業団地まで14.6kmを結び、市民の足として欠かせない存在となっているんだとか。
ベン「ヨーロッパのトラムっぽいね」
カッペイ「う〜ん、ドイツの香りがする…、知らんけど」
(カッペイ、適当なことを言っていましたが、この車両はドイツのメーカーが最初に製造した「ブレーメン形」に準拠しているそうで、まさかのマグレ当たりでした。笑)料金は交通系ICカードでキャッシュレス決済、しかも路面電車なのに高架で道路や鬼怒川を越え、何度もアップダウンがあるのに2人はビックリ。
静かでスムーズな走行を楽しみ、清原地区市民センター前駅で下車。 そしてしばしのバス移動を経て、市塙駅へと向かいます。
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18:30
市塙駅→益子駅
今日の「鉄道旅」を「真岡鐵道」で締めくくるため、やって来ました「市塙駅」。 もうすっかり暗くなってしまいました。
この「真岡鐵道」、元々は旧国鉄(JR)の路線でしたが、昭和62(1987)年に廃止され、第三セクター鉄道会社として継承・発足したものだとか。
カッペイ「ちなみに『まおか』じゃなくて『もおか』ね」
ベン「さっきスマホで調べてたの、見てたからな!」
整理券を取って降車駅で支払うスタイル。支払いは現金のみ。最先端のLRTとは真逆のようで、しっかり地元の人たちの生活を支えているという点ではそっくりでもある。栃木の鉄道、奥深いです。
田園風景の中を走る車両のガタゴトいう懐かしい音に癒され、リラックスした2人。
ホテルのある益子駅で危うく乗り過ごしそうになり、慌てて飛び降りました。笑
今日の旅はここまで。
2人「お疲れ〜!!」さすがに詰め込みすぎたかな? いや〜本当に疲れました。宿に急ごう!
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9:00
3日目 出発
今日も快晴。ベンとカッペイ、59歳コンビの行き当たりばったりな「栃木鉄道旅」もいよいよ最終日。
ベン「結構色々乗ったよなぁ。まずスペーシアX」
カッペイ「わたらせ渓谷鐵道……、は乗れなかったけど、SL大樹! あれはテンション上がった!」
ベン「わかるわ~。で、JR日光線で宇都宮に出て、LRT!」
カッペイ「ドイツの香りがしたアレね。最後は真岡鐵道。『もおか』だからね、『もおか』!」
ベン「まだ言ってる!!」
カッペイのしつこさはともかく(笑)、JRから私鉄からSLまで。鉄道素人(しかも無計画)な2人にしては、なかなかのラインアップじゃないですか?
で、今日そこに加わるのは、何と「一度も列車が走ることがなかった幻の鉄道」です!!
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10:00
幻の鉄道・長倉線
まずは益子駅から再び真岡鐵道で茂木駅へ。駅の近くにはレコード店や駄菓子屋(店頭にガンプラ!)があり、昭和な雰囲気。商店街を通り抜け、2人が向かったのは茂木町役場。
何と役場の中もめちゃくちゃ昭和レトロ推し!
(町には古い商店を改装し、レトログッズを満載した『もてぎ昭和館』があり、町おこしの一端を担っているんだそうです。この日は休館日だったので入れず、残念!)今回は特別に機会をいただき、茂木町観光協会事務局長 瀧田さんに「幻の鉄道・長倉線」の話を伺います。
前日の酒蔵のご主人に負けないくらい饒舌な瀧田さんが30分以上ノンストップで話して下さった内容、日本の近代史の一部でもあり、とても素晴らしかったのですが、流石に長過ぎるので(すみません!)30秒でまとめさせてもらいます。
・昭和3(1928)年、煙草の名産地でありながら交通手段が無かったこの地域に、待望の鉄道「長倉線」敷設が決定される。
・世界恐慌に伴う不況で着工は延期されるが、昭和12(1937)年、ついに茂木で鉄道工事に着手。茂木から中川村の約6キロが完成する。
・昭和16(1941)年、太平洋戦争の勃発で工事は中断。その後この路線の工事は再開されることなく、「幻の鉄道」となった。
・この歴史を後世に残すため、そして鉄道ファンのみならず観光客の皆さんに伝えるため、町おこし企画として立ち上げた。
…のだそうです。
さらに、
「鉄道は大きな街から地方へと繋がるものですが、もしこの長倉線が全面開通していたら、その出発点は宇都宮駅で、今のLRTの路線が最初の10数キロで、長倉線の工事が中止されたことで省営バス路線となり 茂木から長倉を経由して日立まで繋げる壮大な計画もあったと聞いています」と瀧田さん。 偶然、何も知らずに最先端の路面電車を満喫していた2人、実は「幻の鉄道」の出発点を体験していたのかと、その裏側にある歴史にちょっと感動しちゃいました。
茂木町では、残された橋梁や線路の無い鉄路、トンネルを解説付きで巡る観光ツアーを春と秋に各2シーズン行っていて大人気だそうですが、もちろんそれ以外の時期にも徒歩や車で自由に周れます。瀧田さんのご好意で、特別に役場の方に案内してもらえることに。
ツアーは茂木駅の駅前からスタート!まずは地図をチェック。線路横には「幻の鉄道」の起点を示す「0キロポスト」も。
ここから車で移動します。ガード跡、めがね橋の跡などを車窓から眺め(写真を撮り忘れました!汗)鉄道を通すために山を切り崩した「切り通し」。
そしてツアーの目玉、大峯山トンネルが見えて来ると、
カッペイ「♪フェン・ザ・ナイト・ハズ・カム…♬」
ベン「はいはい、ホラー小説の巨匠の少年時代を元にした名作映画ね」
カッペイ「ツッコミが不自然に長い!笑」
鼻歌が木霊する真っ暗なトンネルに到着。思わず記念写真をパチリ。
普段は立ち入り禁止ですが、ガイド付きツアーではトンネル内に入り、その暗さを利用して長倉線に関する動画を上映するんだそうです。見てみたかった!トンネルの先、このまっすぐな道は鉄路の名残りだそうです。それにしてもいい天気。
この道に沿って進むと、ツアーの終点、「下野中川駅」が見えて来ます。
写真も設計図も残っていなかった「下野中川駅」。 「白い駅舎が完成していた」という証言を元に建てられ、鉄道マニアの方が寄贈した同時代の車掌車が鎮座しています。 カッペイが歴史の重みに感動していたら、航空会社のタラップが備え付けられているのを目ざとく見つけたベンが、
ベン「マッカーサー来日♪笑」
カッペイ「ネタが古いっ! 折角の感動も台無しだよ!苦笑」
茂木町観光協会の皆さま、バカな2人ですみません。
栃木の鉄道の知られざる歴史に触れさせていただき、ありがとうございました!
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12:00
養氣亭
さて、茂木駅まで送っていただいた2人、近くに評判の食事処があると教えてもらい、歩くこと10分。
木々に囲まれた「養氣亭」に到着。
ベンは「おろしヒレカツ定食」、カッペイは「おろしロースカツ定食」。衣がサクサクで肉汁ジユワー。 めちゃくちゃ美味しかったです。
今気付いたけど、「鉄道旅」なのに、結構歩いてないですか?
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13:00
道の駅もてぎ
ここで茂木町観光協会の方が、栃木県で最初に出来た「道の駅」が茂木にあると言っていたのを思い出し、スマホの地図を頼りに歩くこと15分。
やって来ました、「道の駅 もてぎ」。
ここでは「ゆず塩ラーメン」と「まるごとブルーベリーアイス(夏限定商品)」が最高と教えてもらいましたが、
カッペイ「さすがにトンカツ直後のラーメンは…」
ベン「59歳の胃袋にはキツイ…」
2人は無理せず「まるごとブルーベリーアイス(夏限定商品)」と「桃のシャーベット(夏限定商品)」をチョイスして、しばし休憩。アイスの甘味に癒されつつ、スマホであれこれ検索してこの後の旅程を決めます。(しかし、本当に行き当たりばったりですね、我々。苦笑)
カッペイ「真岡鐵道でもSLに乗れる! …と思ったら土日祝のみだった」
ベン「真岡駅でSLを展示してるらしいから、これで旅を締めくくるか!」
という訳で、茂木駅から三度真岡鐵道に乗り真岡駅へ。
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14:00
真岡駅→SLキューロク館
真岡駅の構内、既にSL感満載。これは期待が持てます。
ここでカッペイが、窓口に「鉄印帳」の案内があるのを発見! 偉い!2路線目の鉄印を無事にゲットしました。残るは38路線!
(関東に限れば、あと3路線!)
SLの展示を見ようと駅の外に出たら、
真岡駅の駅舎のデザインがSL!!
そしてすぐ横にSLを展示する「SLキューロク館」がありました。通称「キューロク」と言われる大正時代の「9600形蒸気機関車」を展示しているから「SLキューロク館」。
これが「キューロク」。運転台も客車の中も見学出来ます。
様々な時代の貨物車とか、
これはディーゼル車かな? まだ展示前(?)のたくさんの旧車両も遠くに見えて、つい見入ってしまいました。
フィナーレはこれ! 「キング・オブ・SL(と呼ばれてるか知りませんが)」、昭和の少年なら誰でも知ってる「デゴイチ」ことD51形蒸気機関車です。
ベン「SLブームってあったなぁ」
カッペイ「懐かしい! D51とC62は鉄道ファンじゃなくても知ってるよね」
宮沢賢治の銀河鉄道とか、マンガの銀河鉄道とか、機関車の絵本とか、ノスタルジックな話でいつまでも盛り上がる2人でしたが、気付けば閉館の時刻も迫り、後ろ髪を引かれる思いで東京への帰路に付きます。
バスで石橋駅に移動し、そこからJR上野東京ラインで東京駅まで一直線。
59歳2人はグリーン車を迷わず選択し、ゆっくり休むかと思いきや、
カッペイ「『栃木鉄道旅』、最高だったなぁ!」
ベン「『鉄道』というキーワードで、ここまで充実した旅が出来るとは思わなかったよ」
カッペイ「わたらせ渓谷鐵道はリベンジしたい!」
ベン「幻の鉄道と最新の鉄道が、実は同じ路線というのも痺れたよ」
カッペイ「鉄道以外も充実してたよね。足尾銅山も見たし」
ベン「大人になってから見る東照宮もよかったなぁ。あ、人形焼も美味かった!」
カッペイ「酒蔵も最高だった。もう1本買えば良かった!」
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名残惜しくて話が尽きません。「次は大宮」という車内アナウンスにふと窓の外を見ると、そこにはここ数日で見慣れた田園風景は無く、無数のビル群のシルエットだけが通り過ぎていきます。
今回、旅のテーマに選んだ「鉄道」。これまでは単なる移動手段という認識でしたが、鉄道が人や物を動かすことで、その沿線に生活や文化や生まれ、歴史となっていくのを肌で感じることが出来ました。
あの「幻の鉄道・長倉線」が開通していたら、そこにどんな人たちが住み、どんな街が、歴史が生まれていたのか…。それだけで映画が1本撮れますね。
間もなく終着駅の東京です。59歳だからこそ、そして気の置けない仲間との2人旅だからこそ、若い頃には気付けなかった発見や楽しみがたくさんあった旅でした。
最後になりますが、行き当たりばったり、無計画な我々を支えてくださった栃木の皆さん、本当にありがとうございました! 最高の3日間でした!!! -
鈴木勉、杉本洋平
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職業:映像ディレクター
プロフィール:19xx年生まれ。映画、TV-CM、ショートフィルム、ミュージックビデオなど、幅広いジャンルの映像を手掛ける。
ROUTE MAP
※撮影日:2024年8月26日~8月27日
※掲載されている情報は2024年10月3日現在のものです。内容の変更等でご利用できない場合がありますので、あらかじめ出発前にご確認ください。