歴史文化・アート 第1章 ときめきとキラキラの栃木アート旅 Day1
栃木県には、豊かな自然の中にアートや文化を楽しめる魅力的なスポットが点在しています。今回は、埼玉県に住むマキマキ(50代)と群馬県に住むミドリ(60代)が、アートに焦点を当てて栃木を旅行することになりました。
マキマキは出版社の広告デザイナー、美大で工芸を専攻していたこともあり、普段からギャラリーや美術館に行くのが大好き。
昨年秋に訪れた中之条ビエンナーレで、対話型鑑賞ファシリテーターのミドリと仲良くなり、今年の夏も二人でアートな旅行をしました。今回は二人共行った事のない新しいアートな場所を探すことに。ハブになる大宮駅で待ち合わせ、新幹線で那須塩原に向かいました。
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9:00
那須塩原駅
那須塩原駅に降り立つと、雲一つない青空が出迎えてくれました。
「スーパー晴れ女マキマキが一緒だから、今日も快晴だね!」
「お任せください」
景観条例があるため、那須塩原の町並みはこげ茶と白で統一された色彩です。
「見て見て〜The シンプル!な立て看板。 “芸術文化を味わう”まさに今回の旅のテーマだね」
はしゃぐ私たち。
「交番はステンドグラスが嵌っていて石造りだよ!ついふらふら行きたくなっちゃう」
「ポストがホルスタイン柄!」
駅前からすでにアートな雰囲気で、期待が高まりはしゃぐ私たち。
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11:00
田川啓二美術館
那須塩原でレンタカーを借りて最初に向かったのは、2023年4月那須町にオープンした、世界的に知られるオートクチュールビーズ刺繍デザイナー、田川啓二さんの美術館。
入り口のマットに書かれた「EMBROIDERY ART」とは“刺繍芸術”のこと。
館内入ってすぐに、精緻なウェディングドレス。
その後ろにはオートクチュールドレスと大きなタペストリー作品!
「ふわああー」おもわず歓声をあげました!
気持ちいい吹き抜けの空間、光と、窓から見える樹々も素敵です。ゴッホの名作『星月夜』がドレスに!ビーズ刺繍で絵の具の筆致が描かれています。
奥にあるタペストリーが圧巻!
パウル・クレーの絵画作品をモチーフにした、縦390mm×横315mmの超大作。
スパンコールが自然光できらきら光るのです。さらに近寄ると、こんなに繊細にスパンコールとビーズが刺繍されています。
これはグスタフ・クリムト 『生命の樹』をモチーフにした作品。
顔を近づけて見入っちゃいます。
「なんて繊細なの〜」
マキマキは眼鏡もかけます。ひとつひとつのスパンコールが、少し動くだけでキラキラ光を反射して、魅入られます。
夢心地になって中々前に進めません。(笑)「一着だけ着るならどれがいいかしらね?」
「もし自分がハリウッド女優だったらどれを選ぶ?」
対話をしながら見るのが楽しい!ひとつのドレスを制作するのに半年から1年ほどかかるそうです。
どのようにビーズ刺繍を行うのか、制作工程の詳しい説明も展示されていました。刺繍の技法には2種類あり、ひとつ目は針に糸とビーズを通すやり方。
二つ目はアリニードルと呼ばれる、極細のかぎ針に糸を掛け、細かいステッチで止めつけていく方法です。
田川さんの技法はアリニードルを使ったアリワーク。口を開けて見入る私たち。
インドにはかつてマハラジャが存在し、その衣装を飾るために、ビーズ、スパンコール、金属モールなどの刺繍が発達しました。
そのため、大勢の刺繍職人がいたのです。その後、ヨーロッパのオートクチュールのための刺繍を担うように。 現在インドは世界的に最も重要なオートクチュールビーズ刺繍の生産地となっています。
田川さんはインドにアトリエをお持ちで、そちらの熟練職人さんたちが何十人も交代でビーズ刺繍を行っています。
クリスタル、ビジュー、パール、スパンコール、ビーズ、金属モール、金糸銀糸など、使われている素材もアトリエ同様に展示されていました。日本のビーズはとても質が高く、海外で高く評価されているそうです。
オートクチュールビーズの技術を元に、アーティストとコラボし創られた、幻想的な作品を数多く展示しています。今日は、田川さんから直接お話が聞けるギャラリートークの日でした。
ビーズやスパンコールが織りなす“刺繍芸術”について、その源泉となるお祖母様の嫁入り道具など、田川さんの作品と関係するコレクションについても教えていただきました。美しいものを見ると、心がときめきます。
すっかり晴れやかな気持ちになり、その感動を田川さんに伝えて写真を一緒に撮らせていただきました。
併設のミュージアムショップでは、田川さんのビーズ刺繍商品も購入できて、私たち二人とも、迷いに迷ってそれぞれブローチを購入しました。
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13:00
なすとらん
美術館を見るのって、エネルギーを使います。
「お腹すいたねー」
「どこか近くでお昼食べよう」
「せっかくだから那須の美味しいものが食べたい」
「車で5分ほど行った『道の駅・那須高原友愛の森』の中に、地元食材にこだわったお店があるみたいよ」
「那須のレストランだから『なすとらん』?笑」駐車場から最初に見える立派な観光案内所
あちこちにアート作品が!広々とした空間と、木々の緑が心地いい場所です。
※メニューは取材時のものです。
この日は連休で賑わっていた上に、ランチには少し遅めの時間だったので、メニューの半分は終了!
「がーん!」
でもすぐに気を取り直し
「那須和牛のステーキ丼いいかも!」
ちょっと待ちましたが、外のテラス席に座れて、とても快適。「ステーキ丼来た〜」とマキマキ。
「那須和牛コロッケ定食も美味しそう!」喜ぶミドリ。
ちょっとずつ替えっこして食べました。ステーキ丼の那須和牛はジューシーで柔らかく。
那須和牛コロッケはサクサクで美味しかった〜
さあ、お腹も満たされて、次はとっても楽しみにしていた奈良美智さんの美術館に向かいます。
「なすとらん」から車で10分ほど走ります。
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15:00
N's YARD
※毎年12月下旬〜3月まで冬期休館となるため、来館の際は最新情報の確認をお願いします。
奈良美智という名前は知らなくても、ちょっと吊りあがった大きな目の、不穏な目つきの女の子の絵は見たことあるでしょう?
ここ何年か、青森に現代アーティスト奈良美智さんの作品を所蔵する素敵な美術館があると噂で聞き、行ってみたかったけどちょっと遠い。
それが2018年に那須塩原にも出来たと聞いて、小躍りしちゃった。
N's YARD のNは奈良さんの頭文字なのです。庭の中にある美術館!辿り着くまでの道のりがまず素敵です。
いよいよ出発!
ちょっと生意気そうな
吊り目の女の子の絵が並びます。特徴的なのは、作品タイトル、素材、説明など一切ないところ。
ペラ一枚の作品リストはもらえますが、詳細は一切省き、シンプルなタイトルと配置図のみなのです。それが、作品のみに集中できてとても良かった。
日本人は美術館によく行くと言われますが、一つの作品を見る時間は平均1分。
その内説明を読む時間が50秒で、作品自体を観る時間は10秒だと言われています。
でもアートは自分の目で見て、感じて、そこから対話しアート作品の世界に入り込むことでアーティストの見ている世界を体験することに価値があります。そこに知識は不要なのです。まず1分、ただひたすら一枚の絵を見つめます。
ミドリは対話型鑑賞のファシリテーター。
「どこが気になる?」
マキマキに聞いてきます。
「ここは人類がすべて死滅した世界なのかな。降り積もる何かで、都市が埋もれてしまって、生きている人は誰もいない」
「不思議なこれは生物なのか」
「耳みたいに家が建っているね」
「ホテルみたい」
「よく見ると、背中の建物にN's YARDって書いてある!つまりここ?」
「この輪っかは、どこかまた別の場所につながる抜け穴みたい」
白く広い空間で、ひたすら絵と向き合い対話を重ねる。
静かだけれど目まぐるしく心が動く。
作品の中に入っていく。
建物の中にいるのに、絵を通じて別の次元につながっているような感覚。
なりたくなかった大人に おまえもなったのか
作品に描かれている文字がストっと胸に刺さる。
かわいいと怖いが同居して、見ていると胸がざわざわする。奈良さんの作品たち。奈良さんの作品がどうやって生まれるのか、そのヒントになるようなものがたくさんありました。
立体作品もかわいい。
平和のシンボルマークに、フェルトで立体的に作られたマスコットがぎっしりつまった作品。
1メートル以上ありました。
作品を見終わっててくてく歩くと「わー素敵なカフェがある〜」
思わず入ってメニューを見る私たち。
残念ながらオーダーストップ時間を過ぎていたコナラカフェ。次回はここでランチとお茶したい!外に展示されている5メートルの彫刻《Miss Forest / Thinker》。
麻布台ヒルズにも展示されていますが、森の中では見え方が全然違って、森の主のように見えます。隣に並ぶと大きさがよくわかる!
N's YARDは閉館時間の17時ぎりぎりまで堪能しました。
レンタカーを那須塩原駅で返却し、新幹線で宇都宮へ移動。今夜宇都宮に泊まります。
駅からタクシーでワンメーターの、「ダイニング蔵おしゃらく」で夕飯を食べることにしました。
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19:00
ダイニング蔵おしゃらく
暗くてよく見えませんが、大谷石蔵、築70年の建物。
栃木の銘酒「鳳凰美田」で乾杯!
契約農家さんから届く「本日の朝採れ野菜の盛り合わせ」元気なお野菜たちは彩り豊かで見た目もきれい!「本日のカルパッチョ」に「糠漬け」、
栃木の食材を使った「おばんざい8品盛り」。どれもとっても美味しかったです。
この後はタクシーでホテルに戻り、明日のために休みました。
ROUTE MAP
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マキマキ、ミドリ
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職業:広告デザイナー
プロフィール:1972年生まれ。広告代理店を経て、出版社にてデザイナーとして勤務中。ものづくり、絵を描くこと、ものがたりを紡ぐことがライフワーク。
※撮影日:2024年10月12日~10月13日
※掲載されている情報は2024年11月1日現在のものです。内容の変更等でご利用できない場合がありますので、あらかじめ出発前にご確認ください。